
episode "IGNITE"
episode 02 : 越えられなかった壁(2025.09.29 upload)
コロナ禍の初年度、私たちJam9は遅れを取り戻して「進化した音楽に追い付こう」と必死で勉強を重ね、そして2021年に「XPLACE PROJECT」というタイトルで楽曲を増やして行くことになっていました。一新した制作環境に慣れるのは大変だったけれど、出来ることが増えて行く喜びの方が大きかったと思います。プロジェクトは楽曲制作の他に映像制作やアパレルの展開など、全てにおいて自分たちに大きな負荷をかけながら新しい時代に適応して行こうという物で。幸い、収益の無いコロナ禍だったけれどトヨタユナイテッド静岡が企画にスポンサードしてくれたことで、メンバー全員に新しいPCや周辺機材が支給されて、きっとここから全て順調に行くと思えました。
自分たちの中でその象徴だったのが「PENETRATE-feat.CLEEM MIKU-」でした。
2000年代に自分たちが思っていたラテンミュージックは20世紀のクラシックだったことに気付き、2020年代のラテンミュージックを学び直して作ったアレンジ。そこに、K-POPでは当たり前になっていた3連符のメロディーを絡めて、日本でも評価され始めていた「不規則に抑揚が変化するラップ」を載せて。
「難しい時代だとかこれじゃ無理と投げ出す方が楽になれるのはほら皆分かってるが戦ってるんだ」2番の歌い出しの歌詞です。まさに当時の自分たちがそのまま反映されたフレーズだなと思います。
楽曲が完成した時、大きな手応えを感じました。これが2020年代の音楽だよなと。韓国の音楽と並べても見劣りしないんじゃないかと思いました。なぜ韓国かというと、BTSのDynamiteがリリースされたのが2020年8月。日本の音楽がグローバルでは通用しなくて、その間に韓国の音楽が世界で認められたと散々ニュースになっていた頃だからです。その頃には、トレンドに乗り遅れたのが自分たちJam9だけじゃなく、日本の音楽全体だったんだと認識できるようになっていました。だからこそ、急速に進化して世界に認められた韓国の音楽に見劣りしてたまるかという気持ちが当時の自分たちを支えていて、その先で完成したPENETRATEは象徴的な1曲だったんです。
自信を持ってのリリースでした。
でも、返ってきた反応は想像と真逆でした。
Jam9はK-POPにかぶれ始めた。らしさが無くなった。家族の頃のほうが好きだった。
2025年の今から振り返れば、それはもう仕方ない世間の反応だったと思います。例えば「聞き取れない歌詞」は今じゃ日本でも当たり前になったけれど、当時はまだ主流じゃなかった。今ならそれが理解できるけど、2021年の自分たちにとってそんな世間の声は衝撃だったし屈辱でもありました。乗り越えたつもりだったのに、そこには越えられないもっと大きな壁があるような感覚。悔しかったし、もう打つ手がないような気持ち。そんな絶望感が、以降4年間の自分たちをずっと苦しめることになりました。
もちろん以降も楽曲を作り続けました。新しい時代の音楽にアジャストすることに全力投球しながら、メンバー同士では「これって本当に意味あるのかな?」と会話して。時代を無視してずっと過去作をトレースしてた方が、自分たちも楽だしみんな喜ぶんじゃないの?そんな疑問を振り払いながらの制作はメンバー間の歪みになって、時に衝突も引き起こして。2021年が終わろうとしている頃、いよいよ「Jam9がここが限界点なのかもしれない」という想いが膨らんで拭えなくなりました。